日本で働く人には、都道府県ごとに定められた最低賃金が適用される。アルバイトでもパートでも、技能実習でも特定技能でも、国籍が日本でなくても変わらない。額は毎年改定され、2026年(令和8年)度の改定も進行中だ。ただし「今年いくらになるか」は8月の時点ではまだ全国では確定していない。中央が示すのは目安にすぎず、実際の額は都道府県ごとの審議会の答申を経て労働局長が決めるからで、発効日も県ごとに違う。本記事は厚生労働省と都道府県労働局の公表資料に基づき、誰に適用されるか、どう決まるか、2026年8月7日時点で何が確定していないか、自分の時給をどう確かめるかを実務の順序で並べたものである。個別の雇用契約の適法性を判断するものではないため、確認先も併記する。
最低賃金は誰に適用されるか
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、その都道府県内の事業場で働くすべての労働者と使用者に適用される。厚生労働省「最低賃金の適用される労働者の範囲」はこの点を明記しており、正社員・契約社員・パート・アルバイト・嘱託といった呼び方や雇用形態による区別はない。
国籍や在留資格による区別もない。厚生労働省が外国人労働者向けに発行している英語版「Working Conditions Handbook」(2025年11月版)は、日本の労働関係法令は国籍にかかわらず同じように適用され、外国人労働者にも日本人と同じ扱いを受ける権利があると明記している。留学生のアルバイト、技能実習、特定技能も同じ枠組みに入る。
働き方によって適用先が変わる場合もある。派遣で働いているときは、派遣元ではなく派遣先の事業場がある都道府県の最低賃金が適用される。また、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が適用される場合は、高いほうの額が適用される。
そして、最低賃金を下回る賃金で労使が合意しても、その合意は法律上無効になる。同ハンドブックは、最低賃金未満の賃金を定めた労働契約は無効であり、最低賃金と同額を定めた労働契約を結んだものとみなされる、と説明している。「本人が同意している」は理由にならない。
- 雇用形態を問わない(正社員・契約社員・パート・アルバイト・嘱託など)
- 国籍・在留資格を問わない(留学生のアルバイト、技能実習、特定技能を含む)
- 派遣労働者には派遣先の都道府県の額が適用される
- 地域別と特定(産業別)の両方が適用されるときは高いほうの額
- 最低賃金未満で合意しても無効。最低賃金額で契約したものとみなされる
毎年どういう順番で決まるのか
最低賃金の改定は毎年ほぼ同じ手順で進む。まず中央最低賃金審議会が、47都道府県をA・B・Cの3ランクに分けたうえで、ランクごとの引上げ額の「目安」を厚生労働大臣に答申する。次に各都道府県の地方最低賃金審議会が、その目安を参考にしつつ地域の賃金実態調査や参考人の意見も踏まえて調査審議し、それぞれ答申する。最後に各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定する。
押さえておきたいのは、中央が出すのは目安であって決定ではない、という点だ。地方の審議会は目安どおりの額を答申することも、目安と異なる額を答申することもある。同じランクの県でも、最終的な額が一致するとはかぎらない。
地方答申のあとにもう一段ある。答申額は、労使からの異議申出に関する公示などの手続きを経てから労働局長の改正決定になる。三重労働局は2026年8月5日の発表で、答申後「異議申出の公示など諸手続きを経て、改正決定を行う予定」としている。決定後、指定された発効日から新しい額が適用される。
- 中央最低賃金審議会がランク別の引上げ額の目安を答申する
- 47の地方最低賃金審議会がそれぞれ調査審議し、答申する
- 異議申出の公示などの手続きを経る
- 都道府県労働局長が改正を決定し、指定された発効日から適用される
2026年8月7日時点のスナップショット
中央最低賃金審議会は2026年(令和8年)7月28日、令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申した。厚生労働省の公表資料によれば、ランク別の引上げ額の目安はAランク54円、Bランク56円、Cランク56円。仮に全都道府県がこの目安どおりに引き上げた場合、全国加重平均は1,176円になる。前年度からの上昇額は55円、引上げ率は4.9%で、いずれも前年度(66円・6.3%)を下回る。
ランクの内訳も同じ資料に示されている。Aランクは埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪の6都府県。Cランクは青森・岩手・秋田・山形・鳥取・高知・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島・沖縄の13県。残る28道府県がBランクにあたる。
一方で、確定していないことのほうが多い。目安は都道府県別の額ではない。2026年8月7日時点で、厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」に載っているのは令和7年度の額と発効日で、令和8年度分はまだ掲載されていない。目安を示した厚生労働省のページも、発効時期については記載していない。
地方答申は順次出ている段階だ。編集部が各労働局の報道発表で確認できた範囲では、2026年8月7日時点で、8月5〜6日に少なくとも8道県(北海道・宮城・埼玉・千葉・岐阜・三重・長野・岡山)が答申を公表している。三重労働局は8月5日、三重県最低賃金を時間額1,143円に改正し令和8年10月1日から施行する旨を答申したと発表した。令和7年度の1,087円からの引上げで、Bランクの目安56円どおりだ。同じ8月5日、宮城労働局は宮城県最低賃金を時間額1,098円とする答申を発表している。引上げ額は60円(引上げ率5.78%、発効予定日10月1日)で、目安を4円上回る。目安どおりの県も、上回る県もある。ただしいずれも答申であって改正決定ではなく、出回っている都道府県別の数字には見込み値が混じることもある。
- 目安答申日: 2026年(令和8年)7月28日
- ランク別引上げ額の目安: Aランク54円 / Bランク56円 / Cランク56円
- 目安どおりに引き上げた場合の全国加重平均: 1,176円(前年度比+55円・+4.9%)
- ランク別都道府県数: Aランク6都府県 / Bランク28道府県 / Cランク13県
- 2026年8月7日時点で少なくとも8道県が答申を公表(目安どおりの県も、目安を上回る県もある)
- 2026年8月7日時点で、厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」に載っているのは令和7年度の額
発効日は都道府県ごとに違う
改定額が決まっても、全国一斉にその日から上がるわけではない。発効日は都道府県ごとに指定され、しかもかなりばらつく。厚生労働省が目安答申にあわせて公表した令和7年度の一覧では、栃木県の令和7年10月1日から秋田県の令和8年3月31日まで、およそ半年の開きがあった。
同じ資料で令和7年度の額を見ると、最も高いのは東京都の1,226円(令和7年10月3日発効)、最も低いのは宮崎県・高知県・沖縄県の1,023円だった。発効日は宮崎県が令和7年11月16日、高知県と沖縄県が令和7年12月1日。額だけでなく、いつから適用されるかも県によって違う。
実務上は単純で、発効日より前の労働には旧額、発効日以降の労働には新額が適用される。10月に入れば自動的に上がるとは考えないほうがよい。
自分の時給を最低賃金額と比べる
地域別最低賃金は時間額で定められている。月給制や日給制で働いている場合は、いったん時間額に換算してから比べる。厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」は、賃金形態ごとに次の換算を示している。
月給制の「1か月平均所定労働時間」は、給与明細ではなく雇用契約書(労働条件通知書)や就業規則で確認する。年間の所定労働日数と1日の所定労働時間から求めるのが一般的で、実際に働いた時間ではなく契約上の時間を使う。
比較に使うのは所定労働時間なので、残業が多い月に支給額が増えても判定は有利にならない。残業代は次の節のとおり比較の対象から外れる。判定は「毎月の基本的な賃金 ÷ 所定労働時間」で行う。
- 時間給制: 時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)
- 日給制: 日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
- 月給制: 月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
- 出来高払制その他の請負制: その期間の賃金総額 ÷ その期間に働いた総労働時間数 で時間額に換算して比較
- 組み合わせ(基本給は日給、手当は月給など): それぞれを時間額に換算し、合計して比較
比較に使えない賃金がある
支給総額をそのまま時間数で割ると、実際より高い時間額が出てしまう。最低賃金の対象は「毎月支払われる基本的な賃金」であって、支払われる賃金のすべてではない。厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」は、次のものを除外して計算するとしている。
残るのは基本給と、これらに当たらない毎月の手当(職務手当など)で、その合計を所定労働時間で割った額が比較の対象になる。
賞与も外れる。年2回の賞与を足せば年収ベースでは水準を超えていても、毎月の基本的な賃金が最低賃金額を下回っていれば、最低賃金法の観点では問題になる。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 深夜労働に対する賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当・通勤手当・家族手当
下回っていたときにどうするか
換算した結果が下回っていた場合、その額に労使が合意していても法律上は無効で、最低賃金と同額を定めた契約を結んだものとみなされる。差額の扱いを含め、そのままにしないほうがよい。
例外は一つある。都道府県労働局長の許可を受けた場合にかぎり、最低賃金額から減額して支払える制度(減額の特例許可)がある。対象は、精神または身体の障害により著しく労働能力が低い人、試の使用期間中の人、厚生労働省令で定める認定職業訓練を受けている人、軽易な業務に従事する人、断続的労働に従事する人の5類型。使用者が申請書を所轄の労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出し、許可を得る必要があり、自分の判断だけで下げることはできない。
相談先は労働基準監督署と都道府県労働局である。日本語でのやりとりが難しい場合に備えて、厚生労働省は多言語の電話相談を設けている。
対応言語ごとの受付曜日は資料によって記載が異なり、変更もありうる。かける前に厚生労働省「確かめよう労働条件」の相談機関ページで、言語・曜日・番号を確認しておくと確実だ。
- 労働基準監督署・都道府県労働局(勤務先の所在地を所轄するところ)
- 外国人労働者向け相談ダイヤル: 英語 0570-001-701、中国語 0570-001-702 など13言語。受付は午前10時〜午後3時(正午〜午後1時を除く)。通話料は有料
- 労働条件相談ほっとライン: 通話無料。日本語 0120-811-610、英語 0120-531-401 など。平日午後5時〜午後10時、土日祝は午前9時〜午後9時
- 外国人労働者相談コーナー(一部の都道府県労働局・労働基準監督署に設置)
- 総合労働相談コーナー(都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などに設置。職場のトラブル全般のワンストップ窓口)
最新の額を自分で確かめる手順
最低賃金は毎年変わり、都道府県ごとに額も発効日も違う。記事の数字を覚えるより、自分で引ける状態にしておくほうが役に立つ。順序は次のとおり。
本記事は2026年8月7日時点で公開されている厚生労働省および都道府県労働局の資料に基づく整理であり、個別の雇用契約が最低賃金法に適合しているかを判断するものではない。地方答申が進むにつれて都道府県別の額と発効日は順次確定するため、金額そのものは必ず公式ページで最新を確認してほしい。
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」で、自分の都道府県の額と発効年月日を見る
- 改定期(おおむね8〜10月)は、自分の都道府県労働局のサイトで答申・改正決定の発表を確認する
- 雇用契約書(労働条件通知書)と就業規則で、基本給・手当・1日および1か月の所定労働時間を確認する
- 給与明細から、比較に使える賃金だけを取り出して時間額に換算する
- 判断がつかないときは労働基準監督署か多言語の相談窓口に問い合わせる
参考・出典
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申・別紙資料含む)
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(都道府県別の額と発効年月日)
- 厚生労働省「最低賃金の適用される労働者の範囲」(減額の特例許可を含む)
- 厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」(賃金形態別の換算式)
- 厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」(比較から除外する賃金)
- 三重労働局「令和8年度 三重地方最低賃金審議会 三重県最低賃金 令和8年10月1日から、時間額1,143円を答申」(2026年8月5日)
- 宮城労働局「令和8年度宮城県最低賃金の改正答申について 〜60円引上げ(引上げ率5.78%)〜」(2026年8月5日・時間額1,098円)
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」相談機関のご紹介(外国人労働者向け相談ダイヤル・労働条件相談ほっとライン)
- 厚生労働省「Working Conditions Handbook」(外国人労働者向け・英語版/2025年11月)
