「令和の米騒動」と呼ばれた2024年夏の品薄から約2年。日本の米価格は歴史的な高騰と急落を経て、大きな転換点を迎えています。この記事では、農林水産省が毎週公表するスーパーでの販売価格調査(5kg平均価格)を軸に、高騰の経緯、政府備蓄米の放出、輸入米の急増、そして2026年産新米の見通しまで、日本の米価格の現在地をデータで読み解きます。
「令和の米騒動」とは — 2024年夏に始まった品薄と高騰
発端は2024年夏でした。南海トラフ地震臨時情報をきっかけとした買いだめや、前年の猛暑による流通在庫の減少などが重なり、8月から9月にかけて全国のスーパーで米が品薄になりました。棚から米が消えたこの事態は、1993年の「平成の米騒動」になぞらえて「令和の米騒動」と呼ばれています。
2024年秋に新米が出回ると品薄そのものは解消しましたが、価格は下がるどころか上昇を続けました。2025年度の食料・農業・農村白書によると、2025年5月の米の小売価格は5キロ当たり4,260円と、前年同月(2,127円)の約2倍に達しています。ふだんの主食が1年で2倍の値段になるという、家計にとって前例の少ない事態でした。
週次データで見る価格の山と谷 — ピークは2度あった
農林水産省は全国のスーパー約1,000店舗のPOSデータをもとに、米5キロ当たりの平均販売価格(税込み)を毎週公表しています。この「スーパーでの販売価格調査」が、米価格を追ううえで最も基本になる一次データです。週ごとの動きを並べると、この2年の価格には大きな山が2つあったことが分かります。
最初の山は2025年5月です。5月18日までの週に平均4,285円と、当時としての過去最高を記録しました。その後、後述する備蓄米の効果で夏には3,500円台まで下がりますが、秋に令和7年産の新米が高値で出回ると再び上昇へ転じ、2025年12月29日〜2026年1月4日の週には4,416円と、現行調査が始まった2022年以降の最高値を更新しました。これが2つ目の山です。
2026年に入ると値下がり局面が続き、直近の6月29日〜7月5日の週は平均3,458円。前の週から96円(2.7%)下がり、約1年半ぶりに3,500円を割り込みました(2026年7月時点の最新データ)。年始のピークと比べると1,000円近く安い水準です。主な節目を整理すると次のようになります。
- 2025年5月18日までの週: 4,285円 — 当時の過去最高
- 2025年夏: 備蓄米の店頭投入で3,500〜3,600円台まで低下
- 2025年12月29日〜2026年1月4日の週: 4,416円 — 現行調査開始(2022年)以降の最高値
- 2026年6月1〜7日の週: 3,644円 — 下落基調が鮮明に
- 2026年6月29日〜7月5日の週: 3,458円 — 約1年半ぶりの3,500円割れ
政府備蓄米の放出 — 競争入札から随意契約への転換
価格を押し下げた最大の政策が、政府備蓄米の放出です。政府は2025年3月から一般競争入札で計約31万トンを売り渡しましたが、集荷業者・卸を経由する流通に時間がかかり、店頭にはなかなか行き渡りませんでした。
そこで農林水産省は2025年5月26日、売り渡し方式を随意契約に切り替えました。中間流通を通さず小売業者へ直接売り渡す方式で、当時の報道によると売渡価格は玄米60キロ当たり1万700円(税抜き)と入札時のほぼ半値。店頭想定「5キロ2,000円程度」の備蓄米が6月から全国の店頭に並び、対象も大手小売から中小小売・米穀店、さらに外食・中食・給食事業者へと順次拡大されました。2025年を通じた放出量は入札分と合わせて計約59万トンに上ります。
2026年に入ると、備蓄米放出は「出口」の局面に移りました。農林水産省によると、随意契約分は2025年度末までに全買受者への売り渡しが完了し、契約数量の96%以上が販売・使用済みです。一方で、放出により大きく減った備蓄在庫の建て直しも始まっています。日本経済新聞などの報道によると、2026年産米では計20万7,521トンの買い入れ入札が全量落札され、約32万トンまで減った在庫は約53万トンへ回復する見通しです(適正水準とされる100万トンの半分程度)。放出分の買い戻しについては15万トン分の予算が確保されていますが、実施時期は需給を見て判断するとされています。
輸入米の急拡大 — カルローズが定番の棚に
もう一つの大きな変化が、民間輸入米の急増です。国家貿易の枠外で米を輸入すると1キロ当たり341円の関税がかかるため、民間輸入は従来、年600〜800トン程度にとどまっていました。ところが国産米の高騰で関税を払っても採算が合うようになり、2025年の民間輸入量は9万6,834トンと前年(1,015トン)の約95倍に急増。現行制度が始まった1999年以降で最多となりました。
単月では2025年7月の2万6,397トンがピークで、輸入元の大半は米国です。カリフォルニア産の中粒種「カルローズ」は、国産米が5キロ4,000円を超えていた時期に店頭で5キロ3,000円前後と割安で、スーパーの定番棚や外食チェーンで存在感を高めました。粘りが少なめのあっさりした食感で、カレーやチャーハンなど味付けの濃い料理との相性が売り文句になっています。2026年は国産価格の下落で割安感が縮まりつつありますが、輸入米の売り場が一度定着したことは、この騒動が残した構造的な変化といえます。
2026年産新米の作付けと価格の見通し
今後を占ううえで鍵になるのが、この秋に出回る2026年産の新米です。農林水産省の作付意向調査(2026年4月末時点)によると、主食用米の作付面積は136万3,000ヘクタールと、価格高騰を受けて大幅増産となった2025年産並みの高水準が維持される見通しです。生産量に換算すると約733万トンで、農水省が示す需要見通しを20万トン以上上回ります。
在庫も積み上がっています。2026年6月の農林水産大臣会見では民間在庫が249万トンと需給の緩和に言及があり、2026年10月末には329万トンと直近10年で最大になるとの見通しも示されています。こうした「増産と在庫増の同時進行」を受けて、値決めの先行指標とされる九州の早場米では、鹿児島県産コシヒカリの2026年産新米が前年より2割ほど安くなると報じられました。
卸売段階の指標である相対取引価格も、令和7年産は年産平均で60キロ当たり約3万5,800円と過去最高を記録した後、2025年10月をピークに下落傾向にあります。報道では「秋には5キロ3,000円割れも」との観測も出ていますが、天候や作柄、政策対応次第で状況は変わり得るため、現時点ではあくまで見通しとして受け止めるのが妥当です。
家計はどう動いたか — 銘柄米・ブレンド米・輸入米の選び分け
2年に及ぶ高値は、消費者の買い方を確実に変えました。農水省の週次調査では銘柄米(単一原料米)とブレンド米などその他の米が分けて集計されており、例えば2026年3月上旬の週では銘柄米が約4,100円、ブレンド米などが約3,750円と、300〜400円の価格差がありました。高騰期には割安なブレンド米・備蓄米・輸入米へ切り替える動きが広がり、売り場の構成そのものが多様になっています。
価格が落ち着いてきた現在も「銘柄にこだわらず安い袋を選ぶ」という行動は残っており、ブレンド米や輸入米が売り場の一角を占め続けています。2026年7月時点の売り場には、おおむね次のような選択肢が並んでいます。
- 銘柄米(コシヒカリなど単一原料米): 味と銘柄で選ぶ定番。平均より数百円高く、新米への切り替え期は値動きが大きい
- ブレンド米(複数原料米): 銘柄米よりおおむね300円前後〜400円安い傾向。日常使いで量を食べる家庭のコスパ重視の選択肢
- 輸入米(カルローズなど): 5キロ3,000円前後から。カレーやチャーハンなど味付けの濃い料理と好相性
- 無洗米・大容量パック: とぎ洗い不要の時短タイプや10キロ袋で、手間と単価を下げる選択肢
訪日客・在住外国人の目線で — おにぎりから外食への波及
米価の高騰は、ごはんを使う商品の値段にも波及しました。コンビニのおにぎりは値上げが続き、主力商品が150〜200円台となるなか、具材によっては300円台の商品も登場しています(2026年時点・東京新聞などの報道)。外食でも米や海苔、人件費などのコスト増を受けて、2026年度は外食企業の約6割が値上げを実施・計画しているとの調査も報じられており、牛丼や定食など「ごはんもの」の価格に影響が及んでいます。
一方で、訪日旅行者や日本で暮らす外国人にとって、スーパーの米売り場は「今の日本」が見える場所でもあります。価格表示は5キロ・税込みが基本で、袋には銘柄(コシヒカリ、あきたこまちなど)や産地、単一原料米かブレンド米(複数原料米)かが表示されています。9〜10月の新米シーズンには「新米」ラベルの袋が並び、地域ごとの銘柄の多様さはそのまま日本の米文化の豊かさでもあります。
2026年7月時点の平均価格は5キロ3,458円。騒動前の2,000円強にはまだ戻っていませんが、ピークからは1,000円近く下がり、次の焦点はこの秋の新米価格に移っています。農水省の週次調査は毎週更新されるので、日本で米を買う機会があれば「今週の平均価格」と店頭の値札を見比べてみてください。日本の食のいまが、データで実感できるはずです。
