居酒屋は「食事の店」でも「酒だけの店」でもなく、その両方が同じ席で同時に進む店だ。だから注文の順番も、座った瞬間に出てくる小鉢も、会計のしかたも、レストランともバーとも違う。この記事は入店から会計までを時系列でたどり、はじめての人がつまずきやすい四つの実務――お通し、飲み放題、たばこ、支払い――を、公式に確認できる情報の範囲だけで整理する。価格はいずれも2026年7月時点で各社が公表している値である。

入店から着席まで — 最初の3分で確認すること

人数を告げるとカウンター、テーブル、掘りごたつ、個室のいずれかに案内され、混雑する時間帯には「2時間制です」と告げられることが多い。これは席を使える上限時間で、延長できるかはその日の予約状況次第だ。案内の時点で時間制限の有無とラストオーダーの時刻を聞いておくと、そのあとの注文が組み立てやすくなる。

席に着くとおしぼりが出て、たいてい料理より先に飲み物の注文を聞かれる。メニューを読む時間が欲しければ、飲み物だけ先に頼んでしまってよい。「とりあえず生」は「まず生ビールを」という意味の定型句で、全員分をまとめて頼むときによく使われる。飲めない人がいれば、ウーロン茶やノンアルコールビールを同じタイミングで頼めばよく、飲まない理由を説明する必要はない。

価格の読み方には注意点がある。消費税の総額表示は事業者の義務だが、国税庁の説明では税込価格が分かる形になっていればよく、「11,000円(税抜価格10,000円)」のように税込を大きく出す形も、「10,000円(税込価格11,000円)」のように税抜を大きく出して税込を併記する形も認められている。つまりメニューに大きく出ている数字が税抜のこともある。加えて、サービス料や深夜料金、席料が別に加算される店もある。これらは法律ではなく各店の設定なので、メニューの隅か入口の掲示にある注記を注文の前に読んでおきたい。

お通しとは何か — 断れる店と断れない店

席に着いて数分で、頼んでいない小鉢が出てくる。これがお通し(関西では突き出し)で、料金が加算される。正体は「席料をひと皿の料理の形で受け取る仕組み」と考えると理解しやすい。日本の居酒屋には欧米型のテーブルチャージやサービス料が定着しなかった代わりに、この形が広まった。店側から見れば、滞在時間の読みにくい業態で一人あたりの最低売上を確保する仕組みでもある。

金額の実勢はどうか。飲食店向けサービスを運営する株式会社シンクロ・フードが2023年8月に飲食店の経営・運営者373名(うちお通し代やサービス料が発生する業態は272名)に行ったアンケートによれば、「いずれも請求していない」は29.4%で、裏返せば何らかのチャージを請求している店が約7割にのぼる。項目別は複数回答で、お通し代38.2%、席料28.7%、サービス料15.1%。複数を併課する店があるため、これらを足しても7割にはならず100%を超える点に注意したい。お通しの金額は300〜399円が40.4%で最も多く、次いで500〜599円が21.2%、400〜499円が14.4%。一人あたり300〜600円程度が中心だが、店による幅が大きいという読み方が正確だ。

断れるかどうかは店の方針による。チェーン店では方針が公表されていることがある。ワタミが運営する「ミライザカ」は公式サイトのコースページでお通し代330円(税込)を明示したうえで「カット不可」と書いている。一方、鳥貴族は公式サイトに「お客様からお通し代や席料、深夜料金はいただきません。」と明記している。個人店では入店時に「お通しは要りません」と伝えれば応じる店もあるが、席に出されたあとに断るのは難しい。伝えるなら着席直後、最初の注文の前だ。

  • 「お通し」「突き出し」「チャージ」「席料」はどれも同じ枠の費用。呼び方は店ごとに違う
  • 確認するタイミングは入店時か着席直後。出てきてからでは遅い
  • 公式サイトや入口の掲示に「お通し代◯◯円」と書かれている店は、その額で確定している
  • チェーン店には方針を公表している店がある(鳥貴族は公式サイトで「いただきません」と明記)

注文の実務 — シェア前提で、少しずつ、何度でも

居酒屋の料理は大皿・シェア前提で出てくる。一人が一皿ずつ選ぶのではなく、テーブル全体でまず3〜5品を頼み、食べながら追加していくのが標準的な進み方だ。取り皿は人数分もらえるので、出てこなければ「取り皿をください」と言えばよい。最初に全部を注文し切ってしまうと後半に料理が余りやすく、揚げ物や刺身は出来立てのタイミングを逃す。

追加注文は何度してもよい。卓上に呼び出しボタンがあれば押し、なければ店員と目を合わせて「すみません」と声をかける。日本の飲食店では手を挙げて店員を呼ぶことは失礼にあたらない。近年はテーブルのタブレットやQRコードで自分のスマートフォンから注文する店が増え、英語・中国語・韓国語に切り替えられるものも多い。注文が通ったかどうかは端末の履歴画面で確認できる。

分量の目安として、2〜3人なら最初に枝豆や冷奴のようなすぐ出る一品を頼み、そこへ焼き物、揚げ物、刺身をひとつずつ加える。焼き鳥は2本1皿の店もあり、1本単位で頼めるかは店による。締めにご飯物や麺類を頼む習慣があるが、ラストオーダーを過ぎると頼めない。締めるつもりなら15分前には決めておきたい。

飲み放題 — 本体は時間制とラストオーダー

飲み放題は、決まった時間内であれば対象のドリンクを何杯でも頼めるプランだ。重要なのは「時間制であること」と「ラストオーダーが終了時刻より前にあること」の二点で、ここを外すと想定より飲めずに終わる。ワタミの「ミライザカ」の場合、公式サイトによれば単品の飲み放題は120分・1,980円(税込)で1名から利用でき、ラストオーダーは終了時刻の30分前。飲み放題込みの宴会コースは3,300円(税込・120分・7品/店舗限定)から6,000円(税込・150分・9品)まで、いずれも3名から。21時以降限定・3,000円(税込・120分)の二次会コースを置く店舗もあり、構成は店舗によって違う。ラストオーダーはいずれも終了30分前とされている。以上は2026年7月時点で公式サイトに掲載されている条件だ。

条件面のルールも店ごとに決まっている。コースの飲み放題はテーブル全員が同一コースを注文することを条件にしている店が多く、一人だけ外れることはできない。単品の飲み放題でも「同席者全員が注文する場合のみ」とする店がある。運用面では、飲みかけのグラスがあるうちは次を頼めない、一度に頼めるのは一人一杯まで、といったルールも一般的だ。対象銘柄はプランごとに決まっており、指定外の銘柄を頼むと別料金になる。

得かどうかは杯数で決まる。単品で一杯400〜600円前後の店なら、120分で4杯以上飲むかどうかがおおよその分岐点になる。あまり飲まない人や料理を主目的にする人は、単品で頼んだほうが安く収まることが多い。ソフトドリンクだけの飲み放題や、追加料金でノンアルコールを対象に加えるプランを持つ店もある。飲まない人がいるなら注文の前に聞く。

  • 開始時刻は「乾杯の時刻」ではなく「注文が通った時刻」から数える店が多い。確認する
  • ラストオーダーは終了の30分前が一般的(ミライザカは公式サイトで30分前と明記)
  • コースの飲み放題は全員が同一コースを注文することが条件の店が多い
  • 延長の可否と料金は店ごと。混雑時は断られることがある

たばこ — 改正健康増進法で何が変わったか

2020年4月に全面施行された改正健康増進法により、飲食店は原則として屋内禁煙になった。厚生労働省の説明では、喫煙できるのは基準を満たした専用の部屋に限られ、種類によって飲食の可否が違う。喫煙専用室では喫煙はできるが飲食はできない。加熱式たばこ専用喫煙室は経過措置として飲食が認められている。喫煙を主目的とするバーやスナック、店内で喫煙できるたばこ販売店といった「喫煙目的施設」と、小規模な既存店に認められた「喫煙可能室」でも飲食ができる。

「喫煙可能室」は経過措置だ。健康増進法上の要件は全国共通で、東京都多摩府中保健所の説明によれば、2020年4月1日より前から営業していること、客席面積が100平方メートル以下であること、個人または資本金5,000万円以下の中小企業が経営していること、の三つ。東京都受動喫煙防止条例はここに「従業員を使用していないこと(家族従業者を除く)」という条件を上乗せしているため、都内では従業員のいる飲食店は規模にかかわらず原則屋内禁煙になる。ただしこの場合も喫煙専用室(飲食不可)や加熱式たばこ専用喫煙室(飲食可)は設置できるので、喫煙場所が一切なくなるという意味ではない。同じ規模の小さな居酒屋でも、東京とそれ以外で扱いが変わるということだ。

利用者側で影響が大きいのは年齢制限である。厚生労働省は「20歳未満の方については、たとえ喫煙を目的としない場合であっても、喫煙エリアへは一切立入禁止となります」としており、これは従業員であっても変わらない。全席が喫煙可能な店には、子ども連れでは入れない。喫煙設備のある店には標識の掲示が義務づけられているので、入口のマークを見れば全席喫煙可なのか、専用室があるのか、全面禁煙なのかを判別できる。予約サイトの店舗情報にも同じ区分が載っている。

会計 — 席で払うか、レジで払うか

会計は「席で伝票を受け取り、レジで払う」形が最も多い。伝票が卓上に置かれている店ではそれを持ってレジへ向かう。見当たらなければ、店員に「お会計お願いします」と伝えれば持ってきてくれるか、レジで席番号を告げる形になる。タブレット注文の店では端末の「お会計」ボタンを押すと店員が来る。席でカードを渡して精算する方式は、高価格帯の店を除けばあまり一般的ではない。

支払い手段は店によって差が大きい。チェーン店ではクレジットカード、交通系ICカード、QRコード決済が使えることが多い一方、個人経営の小さな店では現金のみということも珍しくない。入口やレジ横に対応ブランドのステッカーが貼ってあるので、入店時に見ておくのが確実だ。現金しか使えない店に当たったときのために、数千円の現金を持っておくと詰まらない。

割り勘は日本の居酒屋では一般的で、「別々でお願いします」と言えば人数で割った金額を出してくれる店が多い。ただし品目ごとに分ける個別会計は、混雑時には断られることがある。深夜料金にも注意したい。ミライザカは公式サイトで「22時以降にご来店のお客様に対し商品代金に深夜料金10パーセントを加算させていただきます」と明示している。遅い時間まで居るつもりなら、その加算がある店かどうかを先に確かめておく。

  • 「お会計お願いします」は会計の依頼。人差し指を交差させるジェスチャーも通じる
  • 「別々で」は割り勘の意。品目ごとの個別会計は混雑時に断られることもある
  • レシートと領収書は別物。宛名入りの領収書が必要なら会計時に依頼する
  • チップは不要。JNTOも「バー、カフェ、レストラン、タクシー、ホテルなどでチップを渡すのは一般的ではない」としている

食べられないものがある人へ

居酒屋の料理は、見た目からは分からない形で動物性の材料が入っていることが多い。観光庁の「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」(令和6年4月)は、日本料理特有の注意点として、出汁に動物由来の食材(かつお等)が使われる点と、みりんや醤油等の調味料に含まれるアルコールを挙げている。野菜の煮物や味噌汁、天ぷらのつゆ、漬物にも魚介系の出汁が使われることがあり、「野菜だから大丈夫」という判断は成り立たない。同ガイドは対応策として昆布等の植物由来の原料からとった出汁を挙げており、実際に昆布やしいたけだけでとっただしなら出せる店もある。だしの種類まで踏み込んで聞く必要がある、ということだ。

ムスリムの場合は豚とアルコールが問題になる。同ガイドは「多くのムスリムは酒(みりんを含む)を口にしません」としたうえで、醤油等の調味料に含まれる微量のアルコールも避ける人がいると注意を促している。みりんや料理酒は日本の調理で広く使われるうえ、揚げ油や調理器具を他の料理と共用していることも多い。同ガイドは調理器具の共用や、調理の過程で対象外の食材が混入することへの懸念も論点として挙げている。居酒屋は多品目を同じ厨房で同時に回す業態なので、完全な分離を期待するのは難しい。あらかじめ対応を公表している店を選ぶか、入店前に電話で確認するのが現実的だ。

アレルギーは伝え方が結果を左右する。「〇〇アレルギーです」とだけ言っても、だしやたれに含まれる微量成分まで確認されないことがある。避けたい原材料を紙かスマートフォンの画面に日本語で書いて見せるのが最も確実で、多くのチェーン店は公式サイトにアレルゲン表を公開している。注文の前に「この料理は出せますか」という形で答えをもらってから頼む。断られたら別の店に移るという判断も含めて、早い段階で聞くほど選択肢が残る。

覚えておくと詰まらない小さな作法

日本ではチップの習慣がない。JNTOの案内でも、バー、カフェ、レストラン、タクシー、ホテルなどでチップを渡すのは一般的ではないとされている。サービスが良かったからといって追加で払う必要はなく、テーブルに現金を置いていくと店員が追いかけて返しにくることもある。感謝を伝えたいなら「ごちそうさまでした」と一言添えれば十分だ。

酒類の提供は20歳以上に限られ、若く見える場合は身分証の提示を求められることがある。パスポートや在留カードを持っていれば問題ないが、持たずに出た日は断られる可能性がある。頼んだものを大量に残すことをよく思わない店もあり、食べ切れる量を都度追加する頼み方はこの点でも理にかなう。

  • 乾杯まで飲まずに待つ。全員のグラスが揃ってから
  • 手を挙げて店員を呼ぶのは失礼ではない。呼び出しボタンがあればそれを使う
  • おしぼりは手を拭くためのもの。顔や首を拭く用途は想定されていない
  • 予約は電話かオンライン。金曜の夜や忘年会シーズンの12月は当日入店が難しい

参考・出典