「モバイルバッテリーを機内に持ち込めるのは1人2個まで」——2026年4月24日から、日本を発着する航空便でこのルールが適用されている。国土交通省が同年4月14日に公表したもので、根拠は国際民間航空機関(ICAO)が3月27日(現地時間)に承認し即日適用した国際基準の緊急改訂だ。本記事は2026年7月29日時点の公式発表に基づき、何個まで、何Whまで、どこに置き、機内で何をしてはいけないのかを整理する。あわせて、充電する側の事情(PSEマーク、レンタル、100Vのコンセント)もまとめる。
いま何が変わったのか — 2025年7月と2026年4月の2段階
日本の機内ルールは、この1年で2段階に強化された。1段階目は2025年7月8日。国土交通省が同年7月1日に発表したもので、「モバイルバッテリーを座席上の収納棚に収納しないこと」と、機内での充電は「常に状態が確認できる場所で行うこと」の2点だった。同省は背景として、同年1月に韓国・金海空港で起きたエアプサン機の炎上事故について「モバイルバッテリーからの発火が原因である可能性が指摘されています」と述べ、国内でも機内での発煙・発火事例が起きていることを挙げている。
2段階目が2026年4月24日だ。ICAO理事会が3月27日(現地時間)に国際基準の緊急改訂を承認し即日適用したことを受け、国土交通省は「航空機による爆発物等の輸送基準等を定める告示」などの一部改正を行った。追加されたのは、①機内持込みは2個(160Wh以下に限る)まで、②機内でモバイルバッテリーへ充電しないこと、③機内でモバイルバッテリーから他の電子機器へ充電しないこと、の3点である。
ICAOは公表資料で、対象機器が1人あたり2個に制限されること、飛行中の充電が禁止されること、そして乗務員は運用要件に沿って引き続き携行・使用できることを示している。改訂は193のICAO加盟国すべてに配布された。日本だけの規制ではなく、各国が自国の規則に落とし込んでいく性質のものだ。
国内では、定期航空協会が2026年4月14日に、4月24日から「会員航空会社全社にて統一的な取り組み」として対応すると発表した。各社も個別に告知を出している。ANAは同じく2026年4月14日付で「1名様につき、2個までが機内持ち込み可能です」と案内し、Peachは「2026年4月24日ご搭乗より」ルールが改定されると告知している。JALも公式サイトで同内容を掲出している。外国の航空会社は、各国が国際基準を自国の規則へ反映する形で対応するため、適用の時期や上乗せの有無が会社ごとに異なりうる。
大原則 — 預けられない・160Whまで・2個まで
国土交通省が旅客向けにまとめた案内(報道発表の別紙1)は7項目からなる。2026年4月24日以降に有効なものを、そのまま並べる。
リチウムイオン電池の扱いは「貨物室に入れない」が出発点だ。貨物室で発煙・発火しても乗員がすぐに気づけない。座席上の収納棚が禁じられたのも、扉を閉めた棚の中では気づきが遅れるからである。
裏を返すと、うっかり預けてしまうと規則違反になる。とくに注意したいのは、機内持込みのつもりだった手荷物が搭乗口で預かりになるケース(ゲートチェック)だ。
- 預入(受託)手荷物に入れない — 禁止されており、必ず機内に持ち込む
- ワット時定格量160Whまで — 160Whを超えるものは持込み禁止
- ショートしないように個々に保護する — 端子に絶縁テープを貼る、ケースや収納袋に入れる、複数のバッテリーや金属品と同じ袋に入れない
- 座席上の収納棚に収納しない — 座席ポケットなど手元に保管する
- モバイルバッテリーは2個まで — 2026年4月24日から追加
- 機内電源などからモバイルバッテリーへ充電しない — 同日から追加
- モバイルバッテリーから他の電子機器へ充電しない(電子機器の充電は機内備え付けの電源から) — 同日から追加
「2個まで」の数え方 — パワーバンク・予備電池・内蔵電池は別物
「2個まで」を正しく理解するには、告示が3つを書き分けていることを知っておくとよい。①パワーバンク(他の電子機器に電力を供給する目的でリチウム電池を内蔵したもの=一般にいうモバイルバッテリー)、②予備の電池(デジタルカメラなどの予備や、機器から取り外した電池)、③機器に内蔵された電池(スマートフォン・ノートPCなど)である。
個数の上限が直接かかるのは①だ。告示の別表第18は、パワーバンクを預入手荷物に入れられないものとし、持込み手荷物として「2個」までと定めている。Whの大小は関係がなく、160Wh以下であれば合計2個までである。
②の予備の電池には、これとは別の枠がある。預入不可・持込みのみという点は同じで、個数は原則2個まで。ただし別表第18は、ワット時定格量100Wh以下の予備リチウムイオン電池(およびリチウム含有量2g以下の予備リチウム金属電池)を「個数には算入しないものとする」と定めており、国土交通省の別紙1も、パワーバンクの持ち方3パターンすべてについて「100Wh以下の予備の電池 個数制限なし」と明記している。数える対象は、100Whを超え160Wh以下の予備の電池のほうだ。これを同じクラスのパワーバンクと併せて持ち込む場合は、告示の言葉で「当該パワーバンクと合算して2個まで」になる。100Wh超のパワーバンクが2個ならこのクラスの予備電池は持込み不可、1個なら予備も1個まで、0個なら予備を2個まで、という数え方だ。
③のスマートフォンやノートPCは、この2個には数えない。内蔵電池は160Wh以下が条件で、預入手荷物に入れる場合は電源を切ることなどが求められる。リチウム電池が装備されたスーツケース(スマートラゲッジ)は、ワット時定格量が2.7Whを超えるなら持込み手荷物とすること、電池を取り外す場合は予備のリチウム電池の規定を適用することと定められている。電動車椅子・電動歩行補助車に用いる予備のリチウムイオン電池は別枠で、300Wh以下のものを1個(1個当たり160Wh以下のものは、2個で1個と数える)まで持ち込める。該当する場合は事前に航空会社へ申し出ておきたい。
Wh の見方と、mAh からの計算でつまずくところ
ワット時定格量(Wh)は本体に印字されていることが多い。「○○Wh」の表記が見つかれば、それが基準になる数値だ。見つからない場合は、定格容量と定格電圧から計算する。
国土交通省の別紙1は、定格容量27,000mAh・定格電圧3.7Vの製品を「99.9Wh」と例示している。ここに落とし穴がある。経済産業省は電気用品安全法のFAQで、3.7Vの単電池を内蔵して出力を5Vに昇圧する製品について「表示すべき電圧は5V」としている。本体の定格電圧が出力側の5Vのことがあり、その数字で計算するとWhを大きく見積もる。本体にWh表記があればそれを優先し、なければセル電圧(3.6〜3.7V前後)で見積もるほうが実態に近い。
3.7V換算の目安は、10,000mAhで約37Wh、20,000mAhで約74Wh、27,000mAhで約100Wh、43,000mAhで約160Wh。日常的に使う1万〜2万mAh級は100Whに遠く届かず、多くの人にとってはWhの上限より「2個まで」が先に効いてくる。
表示が一切ない製品は避けたほうがよい。160Wh以下だと自分で示せない以上、保安検査で断られても仕方がない。
- ワット時定格量(Wh)=定格容量(Ah)×定格電圧(V)
- ワット時定格量(Wh)=定格容量(mAh)×定格電圧(V)÷1,000
空港で手放さずに済むための、出発前チェック
「持ち込めなかったら預ければいい」は成り立たない。預入手荷物に入れること自体が禁止だからだ。さらに国土交通省は、持込みできなかったモバイルバッテリーは宅配便などの貨物としても航空輸送できない場合があるとして、運送事業者へ確実に申告し指示に従うよう求めている。空港で超過分が出たときの選択肢は狭い。
絶縁は具体的なやり方が示されている。ANAは「ショート防止のため、端子部分をテープで保護、もしくはビニール袋に入れて絶縁処理を実施してください」と案内している。ひと手間に見えるが、個々の絶縁は罰則の対象になりうる項目だ。
旅行中に買い足した分も数に入る。日本で1個買えば、それも「2個」の枠を使う。家電量販店で衝動買いしたあとに枠が足りなくなるのが、いちばんもったいない。
- 手持ちのモバイルバッテリーを全部並べ、Wh表示(なければ mAh と V)を確認する
- 160Whを超えるものは持って行かない — 預けることも、空港でどうにかすることもできない
- 3個以上あるなら2個に絞る。残りは自宅に置くか、出発前に陸送で送っておく
- 端子をテープで覆うか、1個ずつポーチや元箱に入れる。鍵や小銭と同じ袋に入れない
- 機内持込みバッグの取り出しやすい位置に入れる(保安検査で提示を求められることがある)
- 搭乗口で手荷物を預かりになったら、その場でバッテリーを抜き出してから渡す
機内での振る舞いと、罰則がかかる項目
搭乗後にやることは単純だ。バッテリーは収納棚に入れず、座席ポケットや自分のバッグなど手元に置く。そして機内では充電しない。スマートフォンやPCは機内備え付けのUSBポートや電源から充電する。Peachの告知は「機内でモバイルバッテリーを使ったスマートフォン等への充電や、座席のUSBポートからモバイルバッテリーへの充電はできません」と明記している。
国土交通省の別紙1には、7項目のうちどれが罰則の対象になりうるかも書かれている。①預入禁止、②160Wh以下、③個々の絶縁保護、⑤2個まで、⑥機内でモバイルバッテリーへ充電しない——この5項目に違反した場合、航空法により罰則が科される可能性があるとされる。④収納棚に入れない、⑦他の電子機器への充電をしない、は協力を求める書き方だ。ANAの告知も、モバイルバッテリーへの充電は「禁止です」、電子機器への充電は「お控えください」と書き分けている。
ただし実務上、この書き分けを気にする必要はない。座席に電源がある機材なら機内側から充電できるし、なければ搭乗前に満充電にしておけばよい。「機内では一切使わない」と決めてしまうのが簡単だ。
なお乗務員については、定期航空協会の共同プレスリリース(国土交通省の報道発表・別紙2)が「乗務員が業務上必要な場合は、適用除外となることが認められています」と明記している。ICAOも、乗務員は運用要件に沿って引き続き携行・使用できるとしている。客室乗務員が使っていても、乗客が同じことをしてよいわけではない。
日本で買う・借りる — PSEマークとレンタルバッテリー
日本でモバイルバッテリーを買うなら、丸形のPSEマークを目印にする。モバイルバッテリーは2018年2月1日の通達改正で電気用品安全法の規制対象になり、1年の経過措置を経て2019年2月1日以降、PSEマーク表示のないものは流通在庫を含めて販売できない。対象は、内蔵する単電池1個あたりの体積エネルギー密度が400Wh/L以上のものだ。
表示義務はマークだけではない。経済産業省は、丸形PSEマークに加えて届出事業者名・定格電圧・定格容量の表示が必要としている。正規に流通している製品なら、Whを計算するための数字が本体に載っているということだ。中古品や無名の製品でこれらが欠けていると、持ち込める根拠を示せなくなる。
買わずに借りる選択肢もある。コンビニや駅、携帯ショップなどに置かれたシェアリング型のレンタルで、ChargeSPOT(運営:株式会社INFORICH)は公式サイトで2025年12月時点の全国設置台数を59,784台としている。料金は30分未満165円から始まり、6時間未満500円、12時間未満570円、12時間以上24時間未満で640円、以降は24時間ごとに360円が加算される(公式サイト記載・2026年7月時点。日本の消費者向け価格表示は税込が原則)。
旅行者の注意点は2つ。借りたバッテリーも「2個」に数えられること、そして帰国便に乗る前に返却しておくことだ。ChargeSPOTは紛失時・破損時に4,080円の補償金が発生するとしている。国内でしか返せないものを持ったまま出国すれば、預けることもできず、返す先もない。
コンセント事情と、最後に確認すべき場所
充電する側の環境も押さえておく。日本政府観光局(JNTO)によれば、日本の電圧は全国一律100V、周波数は東日本が50Hz、西日本(名古屋・京都・大阪を含む)が60Hzだ。差込口は平たい刃を2本、平行に差す形状で、旅行用の変換プラグでは一般に「Aタイプ」と呼ばれる。アース用の3本目のピンに対応する差込口は多くない。
USB充電器やノートPCのACアダプタは、本体に「INPUT 100-240V」と刻印されていれば変圧器は不要で、必要なら変換プラグだけでよい。JNTOは、100V対応でない機器には降圧の変圧器が要るとし、変換プラグや変圧器は東京・秋葉原や大阪・日本橋の電気街、あるいはヨドバシカメラやビックカメラといった大型家電量販店で入手しやすいと案内している。
移動中の電源については、新しい新幹線車両には窓側席の脇にコンセントがあるとJNTOは説明しており、希望する場合は切符購入時に窓側を頼むよう勧めている。ハンバーガーチェーンやファミリーレストランの一部にも電源はあるが、どの店舗にもあるとは限らない。
最後に。ここまでの内容は2026年7月29日時点で公表されている国土交通省・ICAO・各社の発表に基づく。ICAOの緊急改訂が3月27日承認・即日適用、日本での適用が4月24日という速さが示すとおり、この分野のルールは短期間で動く。国土交通省自身も、航空会社によってより厳しいルールを設けている場合があるとして、各航空会社の指示に従うよう促している。搭乗前に、利用する航空会社の公式サイト(ANA・JAL・Peach はいずれも専用の告知ページを設けている)で「モバイルバッテリー」の案内を一度開いてほしい。
参考・出典
- 国土交通省 報道発表「モバイルバッテリーの機内持込みの新たなルールについて」(令和8年4月14日)
- 同 添付資料PDF(別紙1【旅客の皆様へ】モバイルバッテリーの持込みについて/別紙2 定期航空協会 共同プレスリリース)
- 航空機による爆発物等の輸送基準等を定める告示 別表第18(令和8年4月24日適用・PDF)
- ICAO「New power bank restrictions will safeguard international aviation」(2026年3月27日)
- 国土交通省 報道発表「モバイルバッテリーを収納棚に入れないで!」(令和7年7月1日)
- ANA「モバイルバッテリーの取り扱い変更について(2026年4月24日搭乗分より)」(2026年4月14日)
- 経済産業省 電気用品安全法「モバイルバッテリーに関するFAQ」
- 日本政府観光局(JNTO)「Plugs & Electricity」