東大沼キャンプ場の閉鎖を知ったのが出発の前夜、という経験が今年の北海道でまた増えている。七飯町の東大沼野営場は、6月7日にキャンプ場周辺でヒグマの目撃情報があったとして、6月8日から当面の間、閉鎖となった。渡島総合振興局の公式ページに掲載された告知で、再開時期は未定だ。今季は5月末から複数回の閉鎖と再開を繰り返している。特別な事態ではない——大沼国定公園エリアのキャンプ場がヒグマの行動圏と接しているという事実が、毎年夏に再確認されているだけだ。問われているのは、その前提を知ったうえで自分の計画を組み直せるかどうかだ。

大沼エリアにヒグマが多い理由——国定公園の地形から読む

東大沼キャンプ場は函館から北東へ約40km、七飯町字東大沼に位置する無料野営場だ。テントが約100張れる大型フリーサイトで、駐車場は約80台を収容できる。JR大沼公園駅から車で10分というアクセスの良さは道内でも有数で、夏シーズンには道外からも多くのキャンパーが訪れる。炊事場・水道・トイレは整っているが、常駐管理人はいない。自由度が高い半面、場内の安全判断はキャンパー自身に委ねられる構造だ。

大沼国定公園は、活火山の駒ヶ岳(標高1,131m)の裾野に大沼・小沼・蓴菜沼の三つの湖沼が広がる地形だ。火山性の荒地・広葉樹林・湿地・農地が複合的に入り組み、タケノコや山菜など植物食が豊富で、魚の豊かな水辺もある。ヒグマが年間を通じて行動するのに適した環境がそのままキャンプ場の周辺に広がっている。特に春から夏はエゾタケノコの芽吹きとともにヒグマの活動が活発化する時期で、入山する人間の動線とちょうど重なる。

今季の東大沼は5月末からすでに複数回の閉鎖と再開を繰り返している。管轄する渡島総合振興局環境生活課自然環境係が閉鎖の判断を行い、告知は同局のウェブサイトに掲載される。問い合わせ窓口は自然環境係(電話番号は渡島総合振興局の公式サイトに記載)だ。『大沼でクマが出た』は今年特有の話ではない。この地形と生態系が続く限り、毎年夏に繰り返される。そう認識を切り替えると、このキャンプ場をどう計画に組み込むかの見方が変わる。

出発前の閉鎖確認——何を・どこで・いつ調べるか

道南のキャンプ場でヒグマ閉鎖を事前に知る手順は単純だ。渡島総合振興局のウェブサイトにある東大沼野営場のページを、出発48時間前と出発前夜の2回確認する。最新の閉鎖告知はここに掲載される。電話でも確認できるが、ウェブの方が24時間アクセスでき、前日夜に確認しやすい。渡島総合振興局は渡島・檜山地域を管轄する北海道の出先機関で、キャンプ場の閉鎖・再開の公的窓口になっている。

出没の広域動向を把握したければ、北海道の市町村が公開している出没マップ(各市町村の「ひぐまっぷ」)も参考になる。北斗市や美幌町など複数の自治体が令和8年度版を公開しており、大沼・七飯周辺の出没傾向を地図上で把握できる。民間集約サイトも複数あるが、公式の出没マップや渡島総合振興局の閉鎖告知と組み合わせて参照するのが適切で、単独の情報源として頼るのは避けた方がいい。

出発当日の朝にも一度確認する習慣が有効だ。前日夜に問題がなくても、早朝の目撃情報で午前中に閉鎖告知が出ることがある。大沼エリアに限らず北海道全体のフリーサイトでは同じことが起きうる。この『出発当日朝の最終確認』を準備チェックリストの最後に加えておくと、現地に着いてから引き返す事態を防ぎやすい。

閉鎖になったら使う——道南の代替サイト選定と「2案持ち」の原則

東大沼が閉まったとき、次に向かえるサイトを先に決めておく。大沼エリアにはいくつかの有料サイトがある。同エリア内の大沼キャンプ場(OHNUMA CAMPBASE)、グリーンピア大沼、YUKARA AUTO CAMP(RVパークおおぬま)は、いずれも東大沼から車で15分圏内に位置する。予約制のため、入場前に閉鎖状況の確認もしやすい。スタッフが常駐しているサイトは、ヒグマ対応を含めた情報共有の面でも安心感がある。

範囲を広げると、函館方面・長万部・八雲・鹿部方面に候補が増える。なっぷやじゃらんアウトドアで大沼から50km圏内のキャンプ場を地図検索し、東大沼が使えなかったときの候補として2〜3箇所をブックマークしておく。完全予約制のサイトならキャンセルポリシーも確認した上で、仮押さえも選択肢に入る。完全フリーサイトの場合も、閉鎖以外に満員というリスクがある。代替候補は「空きがありそうかどうか」まで含めて選んでおく。

私が使っているのは『2案持ち』のルールだ。行きたいサイト(A案)と代替サイト(B案)を両方決めてから計画を組む。このルールは荒天やアクセス不能による閉鎖にも対応するため、クマ閉鎖限定のものではない。道内フリーサイトを複数泊するなら、最低でも1泊分の予備地を引き出しに入れておく。閉鎖の通知が来たとき、B案が決まっていれば作業は『変更の連絡と移動』だけになる。焦りと損失感が残るのは、B案がないときだ。

道南フィールドで持つべきクマ対策ギア——実測ベースで選ぶ

クマスプレー(カプサイシン系)の実効射程は、製品によって5m前後のものが多い。屋外で試射訓練なしに使うと、風向き次第では使い手自身にも飛散するリスクがある。私は新品を開封後に風向きと射程を一度確認し、腰のホルスターに固定した状態でクイックドローの動作を何度か確認してから山に入るようにしている。スプレーはザックの中ではなく、即座に手が届く場所に付ける。5mという射程は、ヒグマと対峙した場面では非常に短い。それを体感として理解した上で携帯するのと、『持っているから安心』という感覚で持つのでは、いざというときの反応が変わる。

クマ鈴はアナログ型と電子音型で迷う人が多い。どちらも試したが、特定のブランドの優劣より『絶えず音を出し続けること』が目的だと理解してから、選択より装着位置の方が重要だと思うようになった。強風の中では自分の足音もかき消される。音に頼り切らず、周囲の気配に注意し続けることが前提で、鈴はそれを補助するものだ。風の強い稜線や滝の近くでは音が届かないことも念頭に置いた上で行動する。

食料管理はヒグマを人のテリトリーに引き寄せないための最も実効的な予防策だ。テント内で食料を保管しない。調理はテントから離れた場所で行い、使った調理器具も匂いを残さないよう水で洗ってから片付ける。東大沼のような管理人不在のフリーサイトでは、ゴミの持ち帰りも自己管理になる。残飯や生ゴミを放置しないことは、ヒグマが人の場所を『食料のある場所』として学習することを防ぐ最前線の対策だ。渡島総合振興局も公式ページで生ゴミの放置がヒグマを呼び寄せる可能性を明記している。

撤退の判断——キャンプ中に目撃情報が出たとき

テントを張ったあとに周辺での目撃情報が出た場合の行動を、あらかじめ決めておく。管理人不在のフリーサイトでは、撤退するかどうかの判断は全てキャンパー自身にかかる。私が使っている基準は二段階だ。まず目撃の場所と距離を確認する。キャンプ場から2km以上離れた山中での単発目撃なら状況を注視する。1km以内、または前日から当日朝にかけての目撃なら撤退を検討する対象に入る。

次に情報の確度を確かめる。渡島総合振興局が閉鎖告知を出した場合は、その時点で撤退を決定する。SNS上の「見た気がする」程度の情報は、単独では判断材料にしない。市町村の公式発表や管轄機関が確認した情報を優先する。キャンプ場の他のキャンパーと情報を共有し、複数で状況を判断することも有効だ。ただし、周囲の判断に流されるのではなく、自分の撤退基準を持った上で情報を参照する。

撤退を決めたら、速やかにテントを撤収して移動する。このときに重要なのは、急ぎながらも食料とゴミを確実に持ち出すことだ。撤収途中で何かを置いていくのが最悪のパターンだ。撤退先はあらかじめ決めた『B案サイト』が受け皿になる。撤退の判断は失敗でも過剰反応でもない。ヒグマが生息するフィールドで、状況が変わったときに動ける準備を平時から持っておくこと——それがフィールドでの判断力の中身だ。