私は出張と取材で日本各地を回るたびに、回線を変えて試している。短い東京往復なら旅行eSIMの数GBプランで足り、地方を一週間走り回るとテザリングが効いて一日3GBを超える日も出る。同じ「日本で通信する」でも、移動量と動画の量で必要なGB数はまるで違う。だからこの記事は、料金表の最安値を並べる記事ではない。自分の一日のデータ量から逆算して、旅行eSIM・ポケットWi-Fi・現地SIMのどれが向くかを切り分けるための記事だ。 まず用語を一度だけ。eSIM(イーシム)は端末に内蔵されたデジタルSIMで、物理カードを挿さずQRコードや番号で回線を入れられる。dual-SIM(デュアルSIM)は、自国の番号を入れたまま二本目の回線を足せる仕組み。APN(接続先設定)は通信の入口設定で、最近の旅行eSIMはたいてい自動設定だが、つながらないときに手で直す場面がまだある。これだけ押さえれば、以下は読み進められる。価格・プランは動くので、本記事の数字はすべて2026年6月時点。申し込み前に必ず公式サイトで再確認してほしい。
そもそもeSIMはどう動くか——端末対応と「自国番号を残す」話
eSIMは、回線情報を端末のチップに書き込む方式だ。物理SIMのように郵送を待つ必要がなく、購入後にQRコードを読むかアプリで入れれば、最短で数分後にはデータが通る。ここが旅行者にとっての実利で、到着ロビーで列に並ばずに通信を起こせる。ただし前提が二つある。端末がeSIM対応であること、そしてSIMロックが解除されていること。キャリアの分割払いで買った端末はロックが残っていることがあるので、出発前に確認しておきたい。
対応端末の線引きははっきりしている。iPhoneはXR・XS(2018年)以降がeSIM対応で、現在使われているiPhoneの大半が該当する。iPhone 13以降は物理SIMとeSIM、あるいはeSIM二本のデュアルSIMが使える。注意点として、米国版のiPhone 14以降は物理SIMトレイ自体が無くeSIM専用だ。AndroidはGoogle PixelがPixel 3a以降、SamsungはGalaxy S20以降とA5x系(A54/A55/A56)が対応する。自分の端末が対応か不確かなら、電話アプリで「*#06#」をダイヤルしてEID(89で始まる32桁の番号)が出れば、eSIMのハードウェアを積んでいる証拠だ。
訪日客が一番気にするのが「自国の番号はどうなるか」だろう。結論から言えば、旅行用eSIMを入れても自国の番号は変わらない。番号は契約先のキャリアに紐づくもので、データ用eSIMを足す行為とは独立している。デュアルSIM端末なら、自国回線は通話・SMS・iMessage用に「オン」のまま残し、データだけ日本のeSIM側に切り替えるのが定石だ。自国回線のデータローミングはオフにしておけば、高額なローミング請求を避けつつ、家族からのSMSや銀行のワンタイムコードは受け取れる。私はこの「データは現地eSIM、番号は自国回線オン・ローミングはオフ」を毎回の基本形にしている。
一日に何GB要るか——容量から逆算する
選ぶ前に、自分の消費量を一度つかんでおくと迷わない。地図・検索・チャット・SNSの軽い閲覧が中心なら、体感では一日1〜2GBに収まることが多い。これに動画ストリーミングや、ノートPCへのテザリング(スマホをWi-Fiルーター代わりにする使い方)が乗ると、一日3〜5GB、人によってはそれ以上に跳ねる。数字に強い自信がなければ、ホテルや店舗のWi-Fiに繋ぐ時間も計算に入れて、少し余裕を持たせるのが現実的だ。
ここから容量プランの目安が出る。三泊四日の都市滞在で動画控えめなら、5〜10GBの旅行eSIMで足りることが多い。一週間で地方も回り、テザリングも使うなら、20GB前後か、いわゆる「無制限(実際は一日上限つき)」プランが安心だ。長期滞在や複数人でシェアするなら、ポケットWi-Fiや現地SIMのほうが一日あたりの単価で逆転することもある。容量は足りないと旅先で困るが、買いすぎても使い切れずに失効する。自分の一日量に1.3倍ほど掛けて選ぶ、くらいがちょうどいい。
ひとつ釘を刺しておく。「無制限」を名乗るプランの多くは、本当に青天井ではない。たとえばAiraloやSailyの『UNLIMITED』表記は、一日あたり3GBや5GBといった高速枠を使い切ると、その日は1Mbps程度に絞られる方式だ(2026年6月時点)。Holaflyのようにフェアユースとしてテザリングのシェアを一日1GBに制限する例もある。動画を一日中流すような使い方を「無制限」に期待すると、午後から急に遅くなって面食らう。表記ではなく、その『一日の高速枠が何GBか』を必ず確認してほしい。
旅行eSIMを比べる——Ubigi / Airalo / Saily / Holafly
比較の土俵を先に決めておく。ここで並べるのは、訪日客が日本到着前に買える主要な旅行eSIM四社——Ubigi・Airalo・Saily・Holaflyだ。いずれもデータ専用で、日本の電話番号は付かない(通話・SMSはLINEやWhatsAppなどアプリで代替する前提)。回線はおおむねKDDIやSoftBank、Ubigiは加えてNTTドコモも使う。価格はすべて2026年6月時点、米ドル建てが基本だ。
容量で買うなら、UbigiとAiraloが分かりやすい。Ubigiは日本25GB/30日が$32、10GB/30日が$16.50、無制限が7日$25・月$45といった構成(2026年6月時点)。AiraloのMoshi Moshiプランは1〜20GBが$4〜$25のレンジで、上位は割安になる。SailyはNordVPN系で、20GB/月が$24.99、1GBの$3.99から刻める(2026年6月時点)。容量プランは『使い切れる量を選べば旅行eSIMが最も安い』のが強みで、軽めの都市滞在ほど割に合う。
日数で買い切りたい、容量の計算が面倒、という人にはHolaflyが向く。日数指定の無制限が看板で、たとえば7日$27.30、30日$74.90(2026年6月時点)。容量を気にせず使える安心感は確かにある一方、価格は容量プランと比べて高めで、テザリングのシェアは一日1GBまでというフェアユースもある。『料金の妥当性』を正直に言えば、データ量が読める旅行者にはUbigiやAiraloの容量プランのほうが多くの場合で割安だ。Holaflyの数日$3.90/日前後という日割りは、容量管理から解放される対価と捉えるのが公平だろう。
- Ubigi(KDDI+NTTドコモ+SoftBank・データ専用):向く=容量を読める旅行者、複数国を回る人(マルチ国プラン豊富)。向かない=とにかく何も考えず使いたい人。25GB/30日$32など(2026年6月時点)。
- Airalo Moshi Moshi(SoftBank+KDDI・データ専用):向く=小〜中容量を安く買いたい人、同カテゴリ内でトップアップ(追加チャージ)したい人。向かない=真の青天井を期待する人(無制限は一日上限つき)。1〜20GBが$4〜$25(2026年6月時点)。
- Saily(データ専用・番号なし):向く=NordVPN系の使い勝手を好む人、20GB前後を月単位で。向かない=日本の番号やSMSが要る人。20GB/月$24.99・1GB$3.99〜(2026年6月時点)。
- Holafly(KDDI/SoftBank・データ専用・日数指定無制限):向く=容量計算を省きたい人、短期で使い倒す人。向かない=コスト最優先の人、テザリングを大量にシェアしたい人(一日1GB上限)。7日$27.30・30日$74.90(2026年6月時点)。
ポケットWi-Fiと現地SIMはいつ効くか
旅行eSIMが万能というわけではない。ポケットWi-Fi(持ち運べるモバイルルーター)が逆転するのは、複数人・複数端末で一つの回線をシェアする場面だ。家族四人やチーム取材で、各自がeSIMを買うより一台のルーターを回したほうが、一日あたりの単価で安くなることがある。日本のレンタル相場は概ね一日¥400〜800、長期ほど日割りは下がる(2026年6月時点)。空港受け取り・返却ができるのも利点だ。一方の弱点は、充電が要る荷物が一つ増えること、本体を受け取り・返却する手間、そしてルーターを持った人から離れると圏外になること。単独行動が多い旅では、この『置いていかれる』問題が地味に効く。
ここで在日者・長期滞在者の話に入る。短期旅行向けのeSIMやレンタルは日数課金で割高になりがちで、月単位で住むなら現地の格安SIM/eSIMが選択肢に入る。IIJmio(アイアイジェイミオ)のギガプランはデータeSIMが月2GB¥440〜(ドコモ回線・2026年6月時点。eSIM初期費用は2026年10月末までの半額キャンペーン中)と安い。ただし申し込みには日本の住所・本人確認・国内発行のクレジットカード等が要るのが普通で、到着直後の旅行者向けではない。
通話番号つきで無制限級に使いたい在日者には、楽天モバイルの『Rakuten最強プラン』がある。データ無制限がデータタイプで月¥3,168、専用のRakuten Linkアプリ経由の国内通話が無料という構成だ(2026年6月時点)。eSIMでの申し込み・開通が速いのも利点。ただし2026年4月以降は、開通から一年以内の早期解約に解約金(最低月額相当)がかかる点が新設された。短期の訪日客が軽い気持ちで契約して、すぐ解約すると費用が出る——ここは正直に重い注意点だ。現地SIMは『住む人』のための選択肢で、『旅する人』には旅行eSIMかポケットWi-Fiのほうが素直に向く。
- ポケットWi-Fi:向く=複数人・複数端末でシェア、PC作業が多い人。向かない=単独行動中心、荷物と返却の手間を嫌う人。相場一日¥400〜800(2026年6月時点)。
- IIJmio ギガプラン(データeSIM・ドコモ回線):向く=日本に住所があり月単位で使う在日者。向かない=到着直後すぐ繋ぎたい旅行者(本人確認・国内決済が必要)。2GB¥440〜(2026年6月時点)。
- Rakuten最強プラン(番号つき・データタイプ月¥3,168):向く=番号と無制限級データが要る在日者。向かない=短期の訪日客(2026年4月以降、開通1年以内の早期解約に解約金)。
開通でつまずかないために——出発前と到着後の段取り
eSIMの失敗の多くは、設定そのものより段取りで起きる。最大の落とし穴は、現地に着いてからインストールしようとすること。eSIMのプロファイル取得(QRコードの読み込み)にはネット接続が要るので、まだ日本の回線が無い空港でやろうとすると、ホテルや空港の無料Wi-Fiを探す羽目になる。だから私はいつも、出発前に自宅のWi-Fiでプロファイルだけインストールしておき、到着後に回線を『オン』に切り替える運用にしている。多くの旅行eSIMは、インストールした時点ではなく、現地で接続を開始した時点から有効期間のカウントが始まる設計だが、これも提供元で差があるので購入ページで確認してほしい。
つながらないときの順番も決めておくと慌てない。まずデュアルSIM設定で、モバイルデータの回線が日本のeSIM側を向いているかを見る。次にデータローミングの扱い——旅行eSIMは『ローミングをオンにしないと繋がらない』ことがある(端末からは外国回線として見えるため)ので、自国回線はオフ、現地eSIMはオンが定石だ。それでもダメなら、自動設定のはずのAPNを提供元の案内どおり手で入れ直す。ここまでやって動かなければ、提供元のサポートに連絡する——購入前にサポート窓口の有無を見ておくと、いざというとき早い。
最後に、相性と相場の話を一つずつ。日本到着前に買えること、eSIM対応端末であること、SIMロックが解かれていること——この三つが揃って初めて、旅行eSIMは『着いた瞬間に繋がる』利点を発揮する。どれか欠ければ、空港受け取りのポケットWi-Fiのほうが確実なこともある。そして料金は、安いプランを探すより、自分の一日量に合った容量を選ぶことのほうが結局は得だ。スペックは出発点。三週間使って初めて、その製品の本当の顔が見える。回線も同じで、一往復ではなく、移動と動画を含めた『いつもの一日』で測って初めて、自分に向く一本が分かる。なお本記事の価格・プランはすべて2026年6月時点のもので、各社とも改定がある。申し込み前に必ず公式サイトで最新を確かめてほしい。
