クマの出没ニュースが続き、各地でキャンプ場の休業告知も出ている。ただ、ニュースの見出しと統計の数字は別物だ。落ち着いて数字を読み、予約の前にどこを確かめればいいかを「段取り」に落とせば、2026年もキャンプはできる。変わるのは、行く前の手順だけだ。 私はクマ遭遇そのものを現場で検証できるわけではない。だからこの記事では、公的データの数字を一つずつ確かめ、公的な手順を自分の言葉に噛み砕くことに徹する。脅すための記事ではなく、出発前に手を動かすための記事として読んでほしい。
数字で見る2026年——「2.2倍」をどう読むか
環境省の出没速報によれば、2026年4月の全国のクマ出没は1,759件。前年同月の800件から約2.2倍に増えた。ただしこの「全国」には北海道が含まれない(北海道は出没数を公表していない)。九州・沖縄はそもそもクマが生息せず調査対象外で、いずれも速報値だ。だから正確には「全国1,759件(北海道を除く)」と読む必要がある。
年度でみると、FY2025(2025年度)の通年出没は50,801件(6月2日付の改定値。5月時点の報道では50,776件とされていた)。前年度の約2.5倍にあたる。報道では「2009年の集計開始以来で最多」とされている(この最多という位置づけは報道由来)。
人身被害はこれとは別の統計で、こちらは北海道を含む。FY2025は238人が被害に遭い、死者は13人。被害219人・死者6人だった2023年度を上回り、統計上もっとも深刻な数字になった。月別では10月が89人と突出し、県別では秋田・岩手が最多級だ。ここで取り違えないでほしいのは、出没件数の統計は北海道を含まず、人身被害の統計は北海道を含む、という違いだ。母集団が異なるので、二つの数字を単純に足したり並べて比べたりはできない。
閉鎖はどこで起きているか——多くは「数日〜数週で再開」
まず前提を一つ。以下の現況はいずれも6月6日時点であり、状況は流動的だ。報道や告知だけ見ると恒久的に「閉鎖」しているように感じるが、実際の多くは短期で閉じ、状況が落ち着けば再開している。現在形で「閉鎖中」と断じる前に、いつ・何が起きて・いつ再開予定かまで分けて見る。それがフィールドの作法だ。
須津山休養林キャンプ場(静岡・富士市江尾)は、6月1日から30日まで「休業」している。きっかけは5月30日早朝、林道で体長約70cmのクマとみられる動物が1頭目撃されたことだ。公式の表記は「閉鎖」ではなく「休業」で、6月6日時点も休業が続く。7月以降の扱いは市のサイトで告知される予定だ。一点だけ補足すると、目撃された個体は約70cm。富士市公式に出てくる120〜145cmという数字は種の一般値で、今回の個体サイズとは別物だ。種自体も「クマとみられる動物」で未確定なので、ここは混同しないでおく。
ピリカキャンプ場(クアプラザピリカ/北海道・今金町美利河)は、6月1日から7日まで一時クローズした。6月1日早朝に近隣1km以内でクマ出没の形跡が見つかったためだ。6月8日以降に再開したか、延長したかは、6月6日時点では分からない。
自然の森キャンプ場(北海道・北広島市島松)は、5月20日に体長約1mのクマを目撃し、5月23〜24日と5月30〜31日の週末を閉じた。ただし6月6日には再開済みだ。再開にあたって電気牧柵を設置し、夜間(17時〜翌10時)は出入口を閉じる運用に切り替えている。閉じて終わりではなく、対策を入れて開け直した例だ。
青葉公園(北海道・千歳市)は、短時間の閉鎖を繰り返したタイプだ。5月31日朝にサッカー場をクマが横断し、当日11時に閉鎖して14時には解除。6月3日にも閉鎖し、翌4日朝7時に解除している。現況は解除済みで、警戒だけは続く。園内のキャンプ場は公園が閉まっている間だけ短時間使えなくなる形で、長期の閉鎖ではない。
菰沢公園オートキャンプ場(島根・江津市浅利町)は、周辺で目撃が相次ぎ、5月22日から6月5日(予定)までキャンプ場のみを立入禁止とし、檻を設置した。立入禁止になったのは公園全体ではなくキャンプ場だけだ。報道にある「市内で5月22日時点25件」「近年多かった2024年の2倍以上のペース」は市内全体の目撃件数の話で、この公園の周りだけの数ではない。予定期限の6月5日を過ぎたあとの再開告知は、6月6日時点では確認できていない。
五つに共通するのは、『クマが出た→恒久閉鎖』ではなく『短期で閉じ、落ち着けば再開する』運用だということ。つまり行けなくなったのではなく、行く前に状況を下調べするひと手間が要る、というだけだ。最新の状況は、各施設の公式・予約サイトで直接確かめてほしい。
予約前の3点チェック——「全国マップ」を待たない
ここで一つ釘を刺しておく。「クマダスで全国の出没が見られるか」とよく聞かれるが、クマダス(kumadas.net)は秋田県のみのシステムだ。運営は秋田県、2024年7月の運用開始で、緯度経度付き・3獣種に対応し、メールや秋田県公式LINEで通知が届く。便利だが、あくまで秋田限定。「全国版クマダス」というものは存在しない。そして調べた範囲では、全国を一元で見せる官公庁のリアルタイム出没マップも2026年6月時点では無い。環境省が出すのは月次のPDF速報値で、地図ではない。だから『全国マップが出るのを待つ』のではなく、自分で次の3点を当たるのが現実的だ。
私自身は、予約を取ったらまずその市町村の防災メール配信に登録してから出発するようにしている。出先にいても、近くで何かあれば速報が手元に届く。この3点を踏んでも現地の状況は日々動くので、「最新は各施設の公式・予約サイトで」という免責は外せない。出発の前夜にもう一度見ておくくらいで、ちょうどいいと思う。手間に見えるが、ギアの最終チェックと同じで、出発前の準備に一度組み込んでしまえば負担は小さい。
- 出没マップを見る(ある県・ない県がある):秋田=クマダス/長野=「けものおと2」/新潟=「にいがたクマ出没マップ」。これら以外は「(都道府県名)+クマ出没マップ」で各都道府県の公式マップを探す。民間のkumamap.com等は運営者の表記が不明なので、公式と同列には扱わない。
- 予約先の市町村の公式サイトを見る:出没情報や防災メール配信の有無を見ておく。自治体によって情報量の差が大きいので、過信せず複数の窓口を当たる。
- 施設の公式/予約サイト(なっぷ等)/SNSを見る:休業・立入禁止の告知を直接チェックする。告知の日付と「再開予定」の有無まで目を通す。
食料管理と遭遇時の備え——本州と知床は分けて考える
ここはカタログ的に一般化しない。本州など=ツキノワグマ、知床=ヒグマで、種が違えば体格も行動も、効く備えも変わるからだ。出典も「環境省」と「知床財団」で分けて噛み砕く。まず環境省マニュアル(令和3年3月・クマ類一般)の予防策から。鈴やラジオで音を出す(ただし過信しない)、悪天候や夕暮れは一段警戒する、撃退スプレーを携帯する、単独行動を避ける、残飯は必ず持ち帰る——基本はこの五つだ。遭遇したときの動きは、相手との距離で変わる。本州のツキノワは環境省マニュアル、知床のヒグマは知床財団の手順で、混ぜずに下に並べておく。
撃退スプレーが出たので、装備を用途と価格帯で整理しておく。カタログの並び順ではなく、誰が何のために持つか、という見方だ。撃退スプレーは至近距離での最後の手段で、射程は5m程度と短い製品が多い。価格の目安は数千〜1万円台。山に入るなら全員、特に単独行や縦走では持っておきたい。私はシーズンの初めに、練習用の不活性缶(トレーニング缶)で安全装置の外し方とノズルの向きを手に覚えさせる。いざというとき説明書は読めないからだ。実缶は中身を減らさないこと——誤射や風向き、下草で効きが落ちる点も頭に入れ、使用期限の点検も同じタイミングで済ませる。硬質のフードコンテナ(蓋付きの密閉容器)は、匂いを締めて携帯保管するための道具で、価格の目安は数千円台から。クルマで運べるオートキャンプやファミリーに向く。ベアキャニスターは、吊り下げに頼れないバックカントリーで使う耐クマ性の携帯食料庫で、価格の目安は1万円台後半〜2万円前後から。知床縦走のように指定地に泊まる長距離ハイカー向けだ。米国のバックカントリーでは必須装備だが、日本で使う場面は限られる。
キャンプ場側の対策(管理者向け)も知っておくと、自分の張り方の基準になる。食料は屋内保管、密閉できる蓋付き容器を使う、テント・炊事場・保管場所は各60m以上(できれば100m)離す、必要に応じて電気柵。私はオートサイトでも、炊事の匂いが残る場所とテントを歩測でざっと60mは離すようにしている。距離は数字で覚えるより、一度自分の歩幅で測っておくと現場で迷わない。
知床に入るなら、食料管理はヒグマ仕様で組み直す。テント内では調理も食事もしない、調理はテントから100m以上離す、テント内での食料保管は絶対にしない、保管場所も100m以上離す。縦走指定地にはフードロッカーが常設されていて、携帯には耐クマ性のフードコンテナ(前述のベアキャニスター)を使う。数千円台の匂い締め容器ではヒグマには力不足だ。本州のツキノワとは前提が違うので、知床ではこの手順で通す。
最後に二つ。一つ目は「車に積めば安全」という話だ。車内保管は官公庁の公式推奨ではなく報道レベルの情報で、「車内なら安全」とは言い切れない。公的な推奨の中心は、屋内保管・密閉容器・テントから60〜100m離すことだ。二つ目はフードロッカーの普及度。日本のキャンプ場にロッカーが『全く無い』わけではない。国設知床野営場や知床縦走指定地、2020年の事故後に共同食糧庫を新設した上高地・小梨平など、常設の例はある。ただし米国のヨセミテ国立公園のように全サイトにロッカーが常設され保管が義務(must)、バックカントリーはベアキャニスター必須、という制度の形では日本に普及していない。米国は義務、日本は推奨で一部施設のみ——この差を踏まえた上で、自分の食料管理は自分で組む。道具のカタログ値は約束じゃない。風の中で一度張ってみて、初めて分かる。出没件数の数字も同じで、状況の一断面でしかない。落ち着いて手順を組めば、2026年もキャンプはできる。変わるのは、段取りだけだ。
- 【本州・ツキノワ|環境省マニュアル】遠くにいるとき:落ち着いて静かに立ち去る。大声や急な動きはしない。
- 【本州・ツキノワ|環境省マニュアル】近くで威嚇・突進されたとき:背を見せず、クマを見ながらゆっくり後退する。走って逃げない。
- 【本州・ツキノワ|環境省マニュアル】至近で攻撃されたとき:両腕で頭部と顔面を覆ってうつ伏せになる。ツキノワは一撃のあとに逃げることが多いとされる。
- 【知床・ヒグマ|知床財団】約100m:静かに、ゆっくり離れる。
- 【知床・ヒグマ|知床財団】20〜50m:両腕を上げてゆっくり振り、立木を間に挟みながら移動する。
- 【知床・ヒグマ|知床財団】20m以下:走らない。両腕を上げて、穏やかに話しかける。
- 【知床・ヒグマ|知床財団】突進されたとき:威嚇なら障害物越しに後退。本気の攻撃ならスプレー、またはうつ伏せで頭部を守る。ヒグマは時速60kmで走れるので、走って逃げるのは禁物。
